櫂(エーク)の製作

3カ月ほど前、工房ホームページを通じて問い合わせメールが来ました、「船を漕ぐ櫂の製作は可能ですか?」。なんと沖縄の方からです。もちろん櫂は工房初、最遠隔地からの問い合わせです。サバニと呼ばれる伝統的な舟で使う櫂をエークと呼ぶことを教えてもらいました。

半ば意気込み、半ば本気で「木で作るものなら何でも作ります」と書いてきた手前、受けない訳には行きません。エークの製作記事が書かれたホームページを紹介していただいたり、打ち合わせメールを何往復も重ね、ようやく最終寸法が決まり使用材も朴材に決定し、最初のエーク製作が3月に入ってスタートしました。トータル3本の製作依頼を受けたのですが、同時に3本作ってお渡ししてからここが違う、なんてことになると取り返しが付かないのでまずは1本を完成して見てもらわねばなりません。

寸法決定の最終段階で柄の形状が丸から楕円に変更され(涙)、ブレード部はこの図面のように先端に行くほど幅が狭く薄くなり(涙)、更にブレード上部と下部には凹と凸の曲面を付けねばなりません(涙)。よって最終的な加工には機械加工が出来ません(涙)。手鉋、バリバリ使わねばなりません(涙)。

いつもの材木屋さんから杓子用に用意されているらしい長くて厚い節無しの朴材を送ってもらい製作開始。まずは、厚さと幅を大体の寸法でカットして鉋盤に掛け、墨付け開始。

ここからは、手鉋の出番。

こんな感じで墨線に沿って曲面にしていきます。上側の凹曲面は外丸鉋や四方反り鉋の出番ですが、滅多に使わないこれらの鉋、まずは研ぎから開始。丸鉋の刃がカーブと合っていれば理想的なのですが、数種類のものしかないので鉋を掛け終えても表面ウロコ状になっています。

幸い朴の木はとても加工性がよくて逆目も出ないしサンディングも容易なのでここから先はサンディングで仕上げます(曲面なので慎重に手サンディングで)。

柄の楕円は、粗削りまでは機械も使えますが、最後は寸法を何度も測りながら平鉋で楕円に削っていきます。

というような苦労を重ねつつ、ブレード先端や後端を斜めにカットして、面取りをしてようやく1本目が完成!

貰って来た段ボール箱を改造してこの2m近い長さのエークを梱包し、近所のヤマト運輸に勇躍持って行ったのですが、何と「サイズオーバーで送れません」とのご宣託(涙)。

ここから大変でした。某S急便に電話して聞いたところ航空便だとこのサイズで2万数千円とか(ショックが大きすぎて覚えてない)。船便? 最安値の沖縄ツアーパックで自分で運ぶ? なんてことも頭を巡りました。諦めずにシコシコと検索を続けているうちに郵便局に「スキーゆうパック」なるものが存在することを発見。早速、地元の近江八幡局に電話して問い合わせました。「沖縄にスキーを送るんですね?」 私「沖縄にスキー場はないと思いますよ(皮肉を込めて)」。「ホテルに送って、その後送り返しますか?」 私「いいえ、個人宅に片道で送りたいんです」。ざっと30分ほどこんな質問やら、別の局に問い合わせてくれて最後に「大丈夫です、送れます」。製作開始以来初めてのうれし(涙)を流したのでした。

でも、郵便局に荷物を持ち込んで窓口に出したところから、はたまた同じようなやり取りを20分ほど繰り返したのでした。でも、最終的には僅か2500円程度で飛行機に乗って、2日後には沖縄本島の依頼主に届いたのでした。郵便局万歳!!

依頼主から受け取りのメールも届きました。なんと。

「エークが届きました!
素晴らしい出来栄えです。
既成品をはるかに超えてます。
ブレード面の仕上がり、握り心地は
もう感動しました。」

これを読んで、2度目のうれし涙を流したのでした。書き忘れてましたが、このエーク途中までは船を漕ぐ櫂だと信じて作っていたのですが、琉球古武術の演武に使う櫂であると知ったのでした。琉球古武術で用いられるいろいろな武具のひとつなのだとか。Youtubeで検索してその演武を見ることも出来ました。仕事は知識や教養をも養ってくれますね。

その後、追加の朴エーク2本も既に完成して送り届けました。更に堅くて重い木でも作ってほしいと言われ、山桜のエークも製作して既に1本届けました。山桜エーク2本目はもう少し軽くしてほしいとのことで、今は細身バージョンの製作を始めたところです。朴と比べると山桜は堅いうえに杢があって逆目も出るし、サンディングも手強いです(もしかしたら後日続きを掲載)。

長くなりそうな予感を持ちつつ書き始めたのですが、やはり長くなってしまいました、どうもすみません。ま、ここまで読んでくれるのは親しい友人や木工やってるけど時間も余ってる方だと思うのでどうかお許し下さい。私の備忘録みたいなもので。。。

 

離乳食スプーン

2年ほど前、孫に離乳食用のスプーンを作った事を書いたのだがその書き込みを読まれたかつての職場の先輩からお孫さん用にと新たに注文を頂戴した。親が使う最初の離乳食スプーンふたつ(丸底とすりつぶし用の底がやや平らなもの)とその後本人が使う短めのものふたつ、それにそれらを収納するスプーンケースも合わせて依頼いただいた。

お箸やスプーンは、自宅用や家族用に少量作って使っているだけなので人様にお作りするのは少しためらったのだが、よく知った方からでもあり、有難く作らせていただくことにした。

家具類を作るのと違って材料はほんの少しの材木でいいので選択肢は多いのだが、悩んだ末に山桜、ブラックチェリー、ホワイトオーク、それに軽い朴の木と全て違った材を使うことで了解いただいた。

まずは長い方から着手。四角に切った棒状の板に外形を墨付けして、バンドソーでざっくりと外形を切り出した後、丸ノミや小刀、サンダー等も使って徐々にスプーンの形に仕上げていく。スプーンの厚みや周囲の形状は口当たりや使用感を左右する大切な要素なので削り過ぎに注意しつつ慎重に進める。

仕上げは、サンドペーパーを何通りか使いながら刃痕を消しつつ滑らかに仕上げていく訳である。山桜のスプーンケースもスプーンのサイズに合わせて製作。

これでほぼ外形は完成したので、次に塗装。漆塗りを希望されたので拭き漆をするのだが、漆は色が濃くなって元の木の色合いがなくなるので2本は透明なガラス塗料(口に入れるものへの塗料として安全性が確認されている)を使う事で了解いただいた。

拭き漆は、塗った漆をすぐに拭き取ってしまう事を繰り返して徐々に厚い塗膜に仕上げていくのだが、塗りむらを取るため途中で研ぎを入れたりしてさらにまた塗膜が薄くなるので仕上げの様子を見ながら7度ほど塗り重ねてようやく完成。木の色が残ったガラス塗料のものとクラシックな漆塗りが対照的である。

スプーン背面には、依頼主ご夫婦それぞれの愛情のこもった手書きでお孫さんの名前が刻まれた、世界でひとつのスプーンセットの完成である。

離乳食が始まる人生の最初の日々に毎食口にしてもらうことになるスプーン、お孫さんの気に入ってもらえたらこんなに嬉しいことはない。

的場さん、貴重な機会を有難うございました。

木工教室から(21年5月)

コロナ禍の中とはいえ、木工教室では次々と新作、意欲作が誕生しています。

オシャレなメガネケース2種、山桜とウォルナットを二通りに貼り合わせられています。プレゼント用だとか。もらった方はさぞ嬉しいでしょうね。

   

台所用品もいくつか。こちらは回転式の調味料スタンド。メガネケースと同じ作者でご自宅用とのこと。

こちらは、食パンケース。教室で初めてスライド式扉に挑戦されて、見事に完成。板をつなぐ芯材用生地の選択がバッチリ決まり、スムーズに開け閉めできます。

    

そして、スツールを作った方が3名。古くなったピアノ練習用の丸椅子のリフォームをして上半分はそっくり新たに作られました。回すと高さが変わる太いボルトが入った金属部と脚部はキレイにして再利用されています。

 

こちらも同じく丸スツールですが、ご自宅で木工をするときの作業椅子。4本の板脚が斜めに取り付けられたこれまたお洒落なオリジナルデザインです。製作中に次々と新しい構造を思いつかれてどんどん設計変更し、カッコいいスツールの完成です。このスツールも高さを変えることが出来ます。

 

そしてこちらはケヤキ製の角型スツール。それぞれの脚に2方向からほぞが差し込まれているので、ほぞ同士が中で当たらないよう工夫されています。

そして小さな引き出しが12個も並んだウォルナット製の引き出し収納。前板の木目が横につながってカッコいいです。四角のつまみは手前に広がったデザインですが、治具を工夫して安全にカットされました。少し贅沢に厚い板を使い前面は留め加工した7枚継ぎで重厚感もタップリです。

  

今も大作や小物製作が続々と続いています。