病院チャペルの花台

先月下旬、工房から車で5分ぐらいのところにあるヴォーリズ記念病院に花台を納品しました。近江八幡市の最初の名誉市民でもあるW. M. ヴォーリズによって1918年に建設・設立された歴史ある病院ですが、昨年11月に新たな場所に新病院として少し離れた幹線道路沿いに移転したばかりです。

工房のすぐ近くにはやはり彼の手で開設されたヴォーリズ学園(旧近江兄弟社学園)があるのですが、その敷地内にある元幼稚園舎として建設されたハイド記念館の館長さんからのご依頼で病院内チャペル(礼拝堂)に花台を寄贈したいとのご意向でした。ハイド記念館でお会いした際に建物の中を案内していただき、ヴォーリズさんの思いや気配りの数々を感じることが出来る素晴らしい建物や調度品・当時の園児向けの家具類なども見せていただきながら直接にヴォーリズさんの身近で過ごされた彼女の思い出などもお聞きすることも出来、とても貴重な機会でした。

下の写真は、その際にハイド記念館の階段中段にある窓枠を写したものですが、ここに十字架があるのですよ、と館長さんから説明を受けた事が強く印象に残りました。

実は、2014年のヴォーリズ没後50周年を記念して「ヴォーリズ・メモリアル」と呼ぶイベントが近江八幡市内で開催されたのですが、その際に市のおやじ連メンバーとしてボランティアを務めたました。近江兄弟社学園の教室で丸1日の講習を受けて修了証を頂戴し、市内に残るヴォーリズ建築のひとつであるウォーターハウス建築の説明員として数日間、市内外から訪れた多くの見学者に説明させていただきました。

そんな訳でヴォーリズさんはとても身近に感じる存在であり、こんな有難い機会はまたとありません。たたき台となるデザインを幾つか書くところからスタートしました。実際のデザインは礼拝堂のチャプレン様(牧師様)と相談しながら進めて欲しいという事で、実際にお会いして色々なご要望や思いをお聞きしてデザインを進めました。最終的には、設置される礼拝堂で図面の最終確認もさせていただいて製作に入りました。

材は、色々な候補から実際の板見本をご覧の上で山桜を選ばれました。最終的に確定した図面がこれ。

このデザインには、牧師様の思いがこめられた部分が幾つもあるのですが、ひとつご紹介すると3枚の板脚はそれぞれ祈りの手がイメージされています。家具を作っているだけの私にはとても着想の及ばないところです。またハイド記念館窓枠のオマージュとして見る角度によって密かに十字架が見えるようにしています。

寄贈された先生の手によって納品日に早速花を生けられました。実は、この翌日が記念病院の創立105周年記念日という大変意味のある日なのでした。その日がこの花台のお披露目にもなるという、これまた製作者としてはこれ以上嬉しいことはないという出来事となりました。この写真手前の鎌倉彫の額に収められているのは、1956年ヴォーリズさん直筆の文字なのです。

後日談です。通常は家具類をお作りすると注文主の身近で使っていただけるのですが、今回はご寄贈という事で依頼者の手元には残りません。そのことに後で思いが至り、記念に1/4に縮小した模型をお作りして手元に置いてもらう事にしました。

この模型を作っているさ中には、牧師様から納品時に関係者全員で撮影していただいた記念写真を福音書の一部と共に額に入れて頂戴するという有難い出来事もありました。

最後に。実は2002年に亡くなった私の父が最後にお世話になったのは、移転前のこの病院でした。その時の牧師様には当時の旧礼拝堂で祈りの言葉を頂戴したのです。20年余の年月を経てこのような機会を頂戴したのは、まさに神の思し召しという気がするのです。