スプーンとお箸

このところ注文をこなすのと週2日の木工教室で日が過ぎていき、自分の作りたいものになかなか手が付けられない。というのは、言い訳なのだが、久しぶりに小物を作った。

次男のところに今年3月第一子が生まれたのだが、子・孫通じて初の女児。その孫の離乳食がそろそろ始まるというではないか。爺ちゃんとして何か作ってやらねばならぬ。ということで離乳食スプーンに挑戦。

取りあえず、材料は導管の少ない材のカエデと山桜を選んでみた。カミさんと相談すると親が持って離乳食を口に運ぶタイプの長めの丸いスプーンと、スプーンの背で食べ物を押しつぶしやすい背の平らなスプーンがいい、という。更にこの先赤ん坊が自分で持って口に運ぶ短い湾曲したスプーンの3つを作ることにした。

という訳で山桜から長短ふたつのスプーン、カエデの細い枝材から背の平らなスプーンをざっくり掘り出した。最近、グリーンウッドワーキング(切ったばかりの柔らかい生木を使う木材加工)でスプーンを作るというのがあちこちのワークショップで凄い人気らしい。このカエデは慧夢工房のストーブ用の生木だったのだがもらって数カ月経つうちすっかり乾燥して硬くなってしまった。なのでグリーンウッドとは呼べそうにない。

近所に住む漆作家の藤井さんの影響で、去年から拭き漆も見様見真似でやるようになったので、これらのスプーンも拭き漆を施した。

最初に塗った時は、このような艶のないムラだらけの仕上がりだが、5度6度と塗り重ね、時に表面を研いでから塗り重ねていくうちに味が出てくる。多分、7度ぐらい塗り重ねたと思うのだが、これで完成。

離乳食に使うには、ちょっと地味すぎるというか渋すぎる気もするが安心安全な食器である。生まれた時から漆器に親しめば、きっと生涯漆器を側で使ってくれるかも、という期待も込めて爺ちゃんからのプレゼント。

大阪に住む孫娘に昨日届いて、さっそくぺろぺろ。お爺ちゃんの愛情たっぷり注いでるから口当たりいいでしょ。気に入ってくれたようでしみじみ嬉しい。

ところでスプーンに先駆けて、お箸にも挑戦。6年ほど前、訓練校での箸づくり(漆塗り実習とセットだった)で作って以来である。木工教室の一人がお箸を作りたいという事で、同時に作ったのでした。

これにも拭き漆を重ねたのだが、ちょうど藤井さんが工房に来た際に根来塗りの巨大な器を作り始めているという話に刺激を得て、お箸の1組(妻用)に根来塗り(もどき)を施してみた。さらに拭き漆の箸には、銀箔張りも初挑戦。薄すぎて魚の形がうまく貼れず、おまけにこすって貼り付けようとした際に一部がはがれてみっともないが、まあそれなりに味がある、という事にしておこう。1週間ほど前から夫婦でこれらを毎日使っている。痛んで来たらまた漆を塗ればいいので、一生使えるかも?

右のスプーンは、数年前に彫ったスプーン。木固めエースという食器に使えるウレタン塗装を当時塗ったのだが、数年使っているうちに剥げてきたので、去年軽くサンディングしてから拭き漆を数回して蘇ったもの。頻繁に使っているが、漆は実に丈夫。因みに箸ケースは栗。いつぞや出展用に作った際の売れ残りである。

台づくし

最近、すっかり街の木工屋さん的存在に落ち着きつつある私の工房だが、このところ家具ならぬ台の依頼が次々と舞い込んで来た。

1.太鼓台

これはまあ、お陰様で木工房YZの看板商品(?)となりつつあるかも、です。以前報告したプロ和太鼓奏者Oさん依頼の三角台。今月25日の和太鼓発表会で晴れ姿を見せていただいた。かれこれ4~5年台の修理や新しい台を作らせてもらったので、覚えのある台が他にも登場して、ひときわ嬉しく聴いたのでした。下の写真で太鼓を一番下で支えている台ですね。

これに続いて、安土信長出陣太鼓チームから依頼いただいた2台目の太鼓台も先日納品を完了。基本的には、その前に納品した1台目と同じだが、見本の台と同じ厚さで作った1台目は重すぎて、運ぶのが大変だったので次は極力軽くして欲しい、ということであちこち板厚を薄くしたのでした。キャスターを支える部材も薄くしてプレート式が使えなくなったので(プレートの方が大きくてはみ出す)、ねじ込み式に変更。

また、Oさんの紹介で京都在住の和太鼓奏者の方からも太鼓台を依頼されていたのが、ようやく完成目前。下の写真の左側の桶太鼓と右側の締め太鼓をベルトで吊るす形状の折り畳み台である(下2枚目)。小さな締め太鼓の方が鉄材が多く使われていて、はるかに重いのでそちらは貫を上下に設けて頑丈な構造にしてみた。

 こんな感じ

2.トロフィー台

自動車の改造コンクール(正しいかな?)の賞品トロフィーが何とアルミホイルを切断したものらしいのだが、それを乗せる台を作ってほしいという注文を頂いた。これは昨年納めた台にそのトロフィーが取り付けられたアワード。わかる人にしかわからなさそうなフォルムだが、何やらカッコいい。

という事で、今年も再注文いただいた。山桜を使うことになっているのだが、国産の山桜は大木など滅多にないので細い板材のしかも反りが大きく入っている部分は中央で切ったりして、更に色合いや木目の組み合わせを考える必要があり、単純な四角い板を作るだけだが、思いのほか難しい。

こんな風に40cm角の板10枚分を作るため30枚ほどの板を色々と取り替えながら組み合わせを決めた後に接着し、平らに鉋を掛けて面取りをする訳である。完成したのがこれ。この先、どんな車の持ち主のところへ行くのだろう?

3.カード台

お子さんの結婚式でテーブルに並べるカードを立てるスタンドを作ってほしいというお目出たい依頼を受けた。参列者に持って帰ってもらえるようなシンプルな無垢のスタンド、という事でこうなった。

これは、試しに工房の案内ハガキを立ててみたところ。実際にはもう少し小さいカードらしい。延べ100個以上、積み木かジェンガみたい。

4.万年筆陳列台

これも、以前書いたので省略。

こんな風に台というのか、スタンドというのか、立て続けに作らせていただいた。まあ、確かにこういうカスタム注文、受けて作る工房なんて多くはないだろうなあ。存在価値、ここにあり! かも。

木工教室から

この夏の暑さに工房のエアコンは太刀打ちできてないが、木工教室では、暑さに負けない作品がどんどん完成しています。

1.小引き出し

教室に通い始めてまだ1年足らずのMさん、筋金入りの森林女子でもある彼女の最新作は小引出を3つ備えた小箱。もちろん初の引き出し製作である。朴の木を材料に選んで、手加工メインで素敵に完成。引き出しは幅や奥行をちょうどいい按配に仕上げないと見た目とスムーズな引き出しの出し入れが両立しないのだが、ほぼ一発でうまく完成。引き出し奥のスペースが繋がっているので大きな引き出しを出し入れすると小さな引き出しが連動して動くのである。出来上がって塗装前の初の動き具合がこれ。

(当ホームページ初の動画貼り付けに挑戦、うまく行くかな?)


このあとオイル塗装してバッチリ完成したのでした、素晴らしい。

2.カッティングボード

小引出が完成した後の箸休めにカッティングボードをチョイチョイと作られました。森林管理をされている彼女自身が、チェーンソーで森から切り出した板を鉋掛けして利用。元の材のカーブを生かした造詣が秀逸。クルミオイルを塗って出来上がり。

3.アクセサリースタンド

同じく木工女子Kさんのアクセサリースタンド。友人からの依頼で作られたとのこと。8角形の台座がユニーク。

4.椅子

多分、木工教室開始以来初の背もたれ付き椅子。ビーチ材(ブナ材のヨーロッパ版かな)を自在にほぞで組まれています。背板のカーブは、バンドソーで荒切りした後反り鉋で滑らかカーブに仕上げられてます。以前作られたテーブルと組み合わせてご自宅で使われるとのこと。仕上げ塗装は次回の予定。

 

ペン陳列台の製作

私の工房の注文主は、基本的に市内あるいは近隣の方が殆どなのだが、ごくごくまれに遠くの方から依頼をいただくことがある。曲りなりにホームページを構えて製作記録のような感じで作品紹介やブログで製作時の苦労話を書いたりしているので、それを偶然に検索などで見つけるという(検索で上位に出てくるとは到底思えない)、私にとっては奇跡のような出来事が重なって、県外からの問い合わせメールを年に数回頂くのである。その奇跡の記録。

今回のペン陳列台の依頼主は、何と東京で文具店を営まれている方からであった。私が時々旋盤で作るボールペンや万年筆を陳列するために作ったペン陳列台の写真をホームページで見つけ、興味を持っていただいたらしい。電話やメールのやり取りを数回重ねて、寸法や使用材(山桜)が確定し、製作を開始。工房にとっては、大量注文ともいえる1ダースもの陳列台である。

偶然、このころにいくつか重なった注文で山桜を選ばれる方が多く、在庫も払底しいつもの材木屋さんから山桜が(私にとっては)どっさり届いた。理想を言えば幅30cm以上で真っ直ぐで反りもなく節が全くない板材が欲しいものだが、そんな木はまず存在しない。大なり小なり節や割れ、曲がりや反りがあり、幅も20cm足らずからのこのような板から製作物に合わせて適当なものを選ぶわけである。とは言え今回の山桜小径木ながら山桜らしい色合いの癖の少ない上材ではある。

 

今回は、台幅が18cmなので適当なものを選んで貼り合わせなしの1枚板だけで1ダース揃えることが出来た。

上記の図面のようにペンを乗せる半円状の掘り込みが連続する薄い受け部材を全部で2ダース作らねばならないが、それだけの数量の半円(全部で360個!)をキレイにカットするのは手作業では、容易ではない。ドリルで開けるかルーターの丸ビットで開けるか、思案のしどころではある。無い知恵をいろいろ絞って、板を2枚並べて板の境目にドリルで穴をあける(すなわち半円を2個同時にあける)治具を作ってオマケに一度に数枚重ねて掘るという奇策を思いついた。

というような苦労を重ねつつ、部材の準備ほぼ完了。工房のペンを数本置いてみた。

台は、ガラスケース内に陳列した際に商品が見やすいように傾斜をつけて欲しいとも言われているので傾斜カットした脚も準備し、これらの部材を定位置に取り付ける治具も考案して無事組み立て接着し、オイル塗装して並べてみた。

何とか、滑り込みで納期に間に合って、お江戸に発送出来たのでした。お客様に台が届いたその日のうちに万年筆などが並べられた写真もいただいた上、「とても素敵な仕上がりで、スタッフ一同感激しております!」という大変嬉しいご連絡までいただきました。職人冥利を感じる一瞬です。高級万年筆などが200本近く陳列されたド迫力です、あな嬉し!!

因みにこの東京の文具屋さん、「たがみ文具店」という品ぞろえ豊富でオシャレな文具店です。昔はデパートなどに行くと文具品売り場に行くのが好きでしたが、近江八幡には大きな文具店なんて無いし、デパートもまず行かない。。。東京にお住いの方、是非訪ねてみて下さい(学生時代の同級生ぐらいしか東京在住でここ見るひといないか?)。私も東京に行く機会があれば(滅多にないのですが)是非行きたいものです。いつの日か、木工房YZの手づくりペンも何本か置いてほしいなあ。。。