カテゴリー別アーカイブ: 作品

最近の製作(24年1月)

新年おめでとうございます。

今年の4月で工房開設から丸9年となります。これまで工房を応援してくださった皆様のお陰です。本当に有難うございます。木工教室をスタートしてからも丸6年が経過しました。大勢の木工仲間と知り合い、数多くの木工作品を作るプロセスで一緒に知恵を絞り互いに刺激しあう事で楽しく続けることが出来ています。改めてお礼申し上げます。

大晦日にこの半年間に教室で製作された皆さんの作品を紹介しましたが、年明けの今日は私が作ったものを幾つか報告させて下さい。

  • 舞台パネル

工房開設以来、色々な太鼓台の製作機会を頂いている和太鼓奏者の大橋さんからの新命題で舞台用音響反射パネルなるものを依頼されました。市販のものは金属製パネルで立派なのですが、なかなか値の張るものでこれを木製でずっと経済的にというご依頼です。取りあえず最初に6セットを完成して初舞台がこれ。

90x180cmもあるベニヤ板を1枚半使って、上部は折り曲げた構造です。運搬時はかさばらないように脚が折りたためたり、上部は分解できるようにした上で前面は真っ黒に塗装する必要がありました。太鼓台もこのパネルも縁の下の力持ちですが、太鼓のすぐ側で演奏を支える大切な責任を担ってます。

ベニヤの厚さ24mmは欲しいというご希望で、何しろデカくて重くて組むに従って一人で動かすのも大変になり難儀しました(笑)

  • 孫のベッド

数年前、長男のところの上の孫には作り終えたのですが、次は弟も自分の部屋で寝るようになったので作れという指令が。。。前回はコロナで時間が余っている時だったのだが、なかなかベッドひとつ作る時間を作れなくて、随分遅くなったのが、遂にようやく完成。

前回同様にマットレスを乗せるスノコ作りを最後に工房で手伝ってもらって無事完成。お兄ちゃんと同じデザインでトミカを並べる棚もリクエストされたので材以外は全く同デザイン。無事に毎晩役立ってます。

  • お釜台

陶器製の鍋や釜などをお作りの隣町の陶器会社様からのご依頼で時々まとめて作っています。この穴の中につばの有る炊き立てのご飯釜をはめ込んで食卓にお出しするようです。

側面が斜めに転んでいるので接着時はクランプするのが難しいのですが、試行錯誤の結果最近は専用のクランプ治具を数サイズ用意することで失敗なくスムーズに組めるようになりました。

  • ハンティング・チェア

こちらは、同じあきんどの里・観光駐車場内の革工房cogocoroさんとコラボのハンティングチェア試作品。木製脚部分の製作は私が担当してます。実は、cogocoroさんのお陰で近々市のふるさと納税品にデビューの予定なのです。

初期需要分を見込んで10脚分ほどまとめて製作しました。中央部に三又ボルトという金具が必要なのですが、これはまた別のところで調達せねばなりません。ふるさと納税という事で一体いつどれぐらいの製作数になるのか全く予測不能、どうなりますやら2024年の楽しみです。

  • 着物用衣紋掛け

着物用の衣紋(えもん)掛けを依頼されました。ゼロから作ってもいいのですが依頼者は私の幼稚園から高校までずっと同じところに通った近所の幼馴染。ネット時代のお陰で半世紀ぶりに再会しました。お子さんが昔使った洋服掛けを取りあえず使っているけど高さも足りず使いづらいと聞いたので、敢えてそれを改造しませんかと提案したのです。

これが改造後の衣紋掛け。背丈を伸ばして、水平の横棒を追加したり、削れ落ちた塗装を直したりして蘇ったのでした。

高さを持ち上げるために追加の柱を旋盤で削り出しました。デザインも他の部分と合わせつつ。

  • 子供椅子修理

飛騨産業の子供用ダイニングチェア。座面の板の貼り合わせ部が割れています。全部の接着箇所が劣化している場合は、一旦全部分解して、座面の接続部にも簡易ホゾのような部材を挟み込んで元以上に丈夫に復元できますが、この子供椅子は座面以外はしっかりした状態なので割れ目のごく狭いすき間を少しだけ広げて紙やすりを張った金属板を使って古い接着剤を削り落としてから再接着します。

板のつなぎ目がずれないように注意しつつクランプで圧着して接着剤の乾燥を待ちます。

こういう修理の場合は、全分解して接着面をきれいに鉋掛けする時と比べて接着強度に不安が残るので念のため座面裏に当て板で補強します。

最後に長年の使用で塗装がはげ落ちた部分を一旦落として再塗装。すっかり綺麗になりました。

  • ウィンザーチェア修理

名古屋の方からの依頼で大人用ダイニングチェアの修理。高山にあったWinds 太平という会社のウィンザーチェアです。既に廃業された会社で今では修理してくれるところが見つからないようでネット検索で私のところに依頼が飛んで来ます。修理を依頼されるウィンザーチェアの半分以上は実はこの会社のもの。繰り返して修理したので今ではすっかり慣れたものです(笑)。3脚の修理を依頼されたのですが、全て座面が割れていて、脚や背中部分の接着箇所も経年劣化でほぼぐらぐらになってました。

痛みの激しい椅子では、脚が完全に折れていたりほぞ部分が破損していたりで新しく部材を削る出す必要があるので少し費用が嵩みそうです。

依頼者と相談の結果、傷みの少ない部材を集めて2脚のみ修理を進めることになりました。上の子供椅子と違って簡単に全分解出来ました。こういう場合は座板もしっかり補強材を入れて再接着しますから元以上に頑丈に修理出来ます。

座面板の変形が大きくて貼り合わせ後に座面の目違い(貼り合わせ部の段差)が残ってしまった椅子は座面の段差を落とす際に塗装も全部落として再塗装します。

こうやって修理を進め、完成した2脚です。片方は座面全塗装し直してます。合わせて塗装禿げ部分もタッチアップ。これでまた数十年活用できます(見届けられそうにないですが)。しっかり作られた100%木製椅子の強みですね。

  • 宅配ボックス

これは自宅用。教室で凄く凝った宅配ボックスを作られている方がいて(完成までもう少しです)、前から我が家用に作りたいと思っていたのですが、こちらはずっと簡単な構造なので先に出来上がりました。

何の特徴もないのですが、安いベニヤ板を1枚ほぼ残らず使い切るという狙いで作ってみました。

鍵を掛ける方法で悩みましたが、写真のようなロック金具を発見したのでこれを採用。昨年9月に設置以来、不在で再配達という迷惑を掛けることがなくなり、宅配会社の人材不足にもホンの少し貢献かも?設置後2回だけ何も中身が入っていない状態で鍵だけが掛かっていることがありました。きっと試しに金具を回してロックされてしまい開けなくなったんですね。なので荷物を入れる前にロック部を回すと開かなくなりますよ、と書いたメモを鍵の横に貼り付け、それ以来大丈夫です(笑)。

  • 天板

ひとつは、山桜を4枚貼り合わせた天板。天板だけの依頼なので単に大きな板です。

こちらは別の方の食卓の天板に傷やシミが増えたので削り直しと再塗装の依頼。これは完成後の写真、見違えるようになりました。

  • 日本画用額縁

市内在住の日本画家の依頼で大きめの額(山桜製)6個を作らせてもらいました。これが2023年最後の製作となりました。

角部分の補強とアクセントを兼ねて三角形のチキリを入れてます。

  • たまには漆塗り

時間が出来た折に漆塗りもやってみました。生漆(きうるし)を塗って直後に拭き落としてしまう拭き漆。何回も塗り重ねるうちに深みのある光沢が徐々に出てきます。黒漆や友人の漆工芸家に教えてもらった根来塗りの真似事にも初挑戦(写真撮り忘れ)。自宅や息子宅で使ってるだけですが。

2024年は、既に太鼓台などの製作が決まってますが、着手はこれから。これからどんな難問のご依頼が来るのか楽しみです。

本年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

病院チャペルの花台

先月下旬、工房から車で5分ぐらいのところにあるヴォーリズ記念病院に花台を納品しました。近江八幡市の最初の名誉市民でもあるW. M. ヴォーリズによって1918年に建設・設立された歴史ある病院ですが、昨年11月に新たな場所に新病院として少し離れた幹線道路沿いに移転したばかりです。

工房のすぐ近くにはやはり彼の手で開設されたヴォーリズ学園(旧近江兄弟社学園)があるのですが、その敷地内にある元幼稚園舎として建設されたハイド記念館の館長さんからのご依頼で病院内チャペル(礼拝堂)に花台を寄贈したいとのご意向でした。ハイド記念館でお会いした際に建物の中を案内していただき、ヴォーリズさんの思いや気配りの数々を感じることが出来る素晴らしい建物や調度品・当時の園児向けの家具類なども見せていただきながら直接にヴォーリズさんの身近で過ごされた彼女の思い出などもお聞きすることも出来、とても貴重な機会でした。

下の写真は、その際にハイド記念館の階段中段にある窓枠を写したものですが、ここに十字架があるのですよ、と館長さんから説明を受けた事が強く印象に残りました。

実は、2014年のヴォーリズ没後50周年を記念して「ヴォーリズ・メモリアル」と呼ぶイベントが近江八幡市内で開催されたのですが、その際に市のおやじ連メンバーとしてボランティアを務めたました。近江兄弟社学園の教室で丸1日の講習を受けて修了証を頂戴し、市内に残るヴォーリズ建築のひとつであるウォーターハウス建築の説明員として数日間、市内外から訪れた多くの見学者に説明させていただきました。

そんな訳でヴォーリズさんはとても身近に感じる存在であり、こんな有難い機会はまたとありません。たたき台となるデザインを幾つか書くところからスタートしました。実際のデザインは礼拝堂のチャプレン様(牧師様)と相談しながら進めて欲しいという事で、実際にお会いして色々なご要望や思いをお聞きしてデザインを進めました。最終的には、設置される礼拝堂で図面の最終確認もさせていただいて製作に入りました。

材は、色々な候補から実際の板見本をご覧の上で山桜を選ばれました。最終的に確定した図面がこれ。

このデザインには、牧師様の思いがこめられた部分が幾つもあるのですが、ひとつご紹介すると3枚の板脚はそれぞれ祈りの手がイメージされています。家具を作っているだけの私にはとても着想の及ばないところです。またハイド記念館窓枠のオマージュとして見る角度によって密かに十字架が見えるようにしています。

寄贈された先生の手によって納品日に早速花を生けられました。実は、この翌日が記念病院の創立105周年記念日という大変意味のある日なのでした。その日がこの花台のお披露目にもなるという、これまた製作者としてはこれ以上嬉しいことはないという出来事となりました。この写真手前の鎌倉彫の額に収められているのは、1956年ヴォーリズさん直筆の文字なのです。

後日談です。通常は家具類をお作りすると注文主の身近で使っていただけるのですが、今回はご寄贈という事で依頼者の手元には残りません。そのことに後で思いが至り、記念に1/4に縮小した模型をお作りして手元に置いてもらう事にしました。

この模型を作っているさ中には、牧師様から納品時に関係者全員で撮影していただいた記念写真を福音書の一部と共に額に入れて頂戴するという有難い出来事もありました。

最後に。実は2002年に亡くなった私の父が最後にお世話になったのは、移転前のこの病院でした。その時の牧師様には当時の旧礼拝堂で祈りの言葉を頂戴したのです。20年余の年月を経てこのような機会を頂戴したのは、まさに神の思し召しという気がするのです。

最近作ったもの

  • ウォルナット座卓

小さめの座卓というリクエストで作らせてもらったウォルナットの座卓。通常は、何枚かの板を貼り合わせて天板を作ることが多いが、今回は手元の幅広の一枚板を使う事にした。元の板は、こんなぱっと見、冴えなく見える板なのだが。。。

耳の部分を切り落とし、中央部に虫食いがあったのでそこを切り落として左右2枚の板に切り分けることにした。左右2枚に切ってしまえば鉋盤に通せる幅になり、経年のシミも汚れも綺麗に落ちます。水で濡らすと塗装した時のイメージが浮かびます。いい感じ。

脚を4本同じ木から切り出せば材料の勢揃い、この後先端を旋盤で丸ホゾ加工します。

脚先は、少し細くカットして天板に少し斜めに掘った丸穴に脚を差し込んで接着、塗装して完成です。元板の野性味から見違えるように上品な姿になったのでした。

直後に同じくウォルナットで作った額も納めたのですが、これらがご自宅に収まった写真を頂戴しました「すっかり我が家に馴染んでいます」との添え書き。奥にある小さなサイドテーブルも実は数年前に作らせていただいたものなのです。有難うございました。

  • 沖縄古武道の武具

以前ご依頼を受けて作らせてもらったエークと呼ばれる舟の櫂。これまで朴の木、山桜で5本ほど作ったのだが、今回は日本の木で最も堅いと言われる樫をご希望された。何軒もの材木屋さんに問い合わせたものの2mほどの長尺厚板で割れのないものが結局手に入らず、タモで了承してもらいました。

同時に注文いただいたのは、このエークと同じく沖縄古武道で使われる平棒と呼ばれる楕円断面の2m近い棒。やはり長尺の樫板が手に入らず、こちらはメープル材(カエデですね)に決定しました。良質の輸入材なので真っすぐな木目で樫の代わりになる堅さも備えているようです。

上のエークの柄も実は同じく楕円。エークは演武で使われるのみで実際にエーク同士で打ち合うことはないらしいのですが、この平棒は実際に打ち合う事もあるとのこと。1.9mほどの長さがあるので通常の木刀などよりはるかに長いのです。

楕円棒を作るには、長方形の棒に加工して後、大きな面取りを機械で行った後ひたすら手鉋を掛け続けて楕円に近づけていきます。エークのブレード部分の片面は凹面になっていて(もう片面は凸面)丸鉋で仕上げるのですが、平鉋で凸面に削る方が幾分楽と言えば言えなくもないのですが。削りくずが、こんな感じ。昔、木毛(もくめん)というこんな削りくずで梱包の詰め物がありましたね。捨てるには惜しいけど捨てた(笑)

私も学生時代に合気道をやっていて似たような棒(杖と呼ばれるそちらは丸棒でしたが)を使った経験があるので武道談義も少しばかりさせていただいたりもしました。

沖縄にお届けした後ご連絡を頂きました。「楕円の形が絶妙です。以前使っていた棒より握り心地が良く、振り込む太刀筋が良く実感できて稽古の時にテンションが上がります」。嬉し!!

  • 子供用食卓椅子

兵庫の実家のすぐ近所に住んでいた幼稚園から小中高までずっと同じだった幼馴染の女性から半世紀ぶりの突然のメールをもらいました。私が工房で家具を作っていることを友達から聞いて、ネットで検索して連絡をくれたのです。LINEを通じていろいろと昔話から近況まで報告し合った後に4人目のお孫さん用に食卓椅子の依頼をもらったのでした。私自身の孫達や別の方からの依頼で作った事のあるデザインですが、事前に食卓椅子の高さを聞いて、肘掛けがその食卓下に収まるように高さを数cm変更しました。今回の椅子は初めての山桜に決まり、製作に時間が掛かってしまいましたが、無事納品出来ました。

完成して塗装した後の写真を撮り忘れてる! という訳で塗装前です。今回の改良で足置き板を3段階の高さに取り付け可能にしてみました。

彼女の息子さんの家に直送したのですが、直後に丁寧な礼状を頂戴しました「素敵な椅子を作成頂きありがとうございます。さっそく娘は気に入って使わせて頂いております」。製作者にとって一番嬉しい瞬間ですね。

こんなのも作りました

だんだんものぐさになって来たのか、Blog掲載間隔も伸びてきたのですが、年が明けるまでに何とか最後のを書いておこう。ということで。。。

  • 2022年最後の家具

年の最後に納品したのは、勝手にワルツと名付けた本立て。キャスター付きの台に少し傾斜した本棚を向かい合わせに2組乗せたもの。少し傾斜しているので本を立ててもブックエンドなしで倒れません。上にはリモコンや眼鏡置き場になる天板も。

力が掛かる背板と本が乗る板の直角な角は頑丈なアリ継ぎ。

  • 座卓の大改造

滅多にない依頼ですが、既存座卓の大改造をやりました。大きすぎでまた重すぎるので6畳間で使えるように小さく薄くしてほしいとの依頼でした。元の板は90cmx150cmで天板厚も5cmというサイズの立派な一枚板の座卓です。年輪から推定すると元の木は優に直径150cm以上はありそうな巨大な木です。

 元の座卓

これをサイズを80cm x 120cm、板厚も4cm弱程度にというご要望。最初写真を見て色を付けた栃かと思ったのですが、はるかに重い木で国内の木ではなさそうです(こんなサイズの国産材は今や欅か栃ぐらい)。

苦労して工房に持参いただいた座卓を3人がかりで作業台に乗せました。自然木風に彫刻がほどこされた脚も取り替えついでに少し長くして天板高さをアップしてほしいとのこと。

天板にガッチリ接着された脚は、手鋸で切り落とします。

長さを短くカットし耳も切り落とし、新たに使用する部分は(40cmx122cm程度)手押し鉋盤と自動鉋盤で薄くして行きます。

脚は新たに手元の木で幾分似た印象のものをということでナラの木から丸脚に削り出します。特殊な脚取付け金具を埋め込みます。ネジを使って着脱可能かつとても強固に天板に吸い付いた脚に出来るのでよく使います。

オイル塗装すると入り組んだ杢が派手に浮かび上がり、気に入って頂けたようです。という事で無事完成してお渡ししました。

  • 根来塗りの十角盆

工房の近くに住む漆工芸家の藤井さんに根来塗り作品の本を夏ごろに借りました。その中の角盆の形が凄く気に入ったので合間を見て大きな八角盆と十角盆を適当な木で作ってみたのでした。八角盆はタモとベニヤの底板、十角盆は桑と欅の底板。

オイルを塗るか気が向いたら拭き漆してみようかと思っていたのですが、藤井さんが興味を示されたので両方とも持って帰ってもらいました。

しばらくしたら布着せをして漆の下地が施されつつある姿に変身。お盆全体の強度を上げるためにこういう下処理をするそうです。とても手の掛かる作業のようです。

やがて根来塗りで仕上げられたお盆に華麗に変身したのでした。出来上がったお盆を借りて10月の匠の祭では並べてみました。

そして11月の滋賀県展。滋賀県でこれまで3人しか認定されていないアートマスターの一人である藤井さんは棗ふたつ出品されたのですが(無審査)、なんとその棗が乗っていたのはこのお盆のひとつでした。木地はまあ言ってみれば縁の下の役割ですが、ウレシーの一言。

完成した十角盆、しばらく我が家に滞在中でこの正月のおせち盛り付けに活躍の予感!

それでは皆様いい年をお迎えください。本年も有難うございました。あと1時間ほどは今年です!?!

太鼓台2022の②

ふたつ目に紹介する太鼓台は、ケヤキの丸太をくり抜いて作られた大きく重い長胴太鼓を乗せる台。

西洋楽器の多くは、長い歴史の中で標準化された大きさやデザインのものが主流だと思うが、和太鼓は実にいろいろなタイプのものがあり、たとえ同じ構造・デザインの太鼓台でも鼓面径が寸刻みで存在する(ようである)。太鼓の置き方も縦置き、横置き、斜め置き、時には肩から下げたりと同様にバラエティーに富んでいる(ようである)。

更に演奏者の背丈や演奏方法によって鼓面の傾きや高さの要望も変わってくる(ようである)。まあ、だからこそ滋賀の片隅で工房を営んでいる私のところに特注の太鼓台製作依頼が時々やって来る訳である。

今回の依頼主も遠く関東からでした。バリバリのプロ和太鼓奏者で経歴を拝見するといろいろな大会で優勝とか上位入賞されている。どういう訳かそんな方からの依頼を受け、誠に光栄なことです。メールを見返していたら昨年末に工房ホームページ経由で最初の問い合わせをもらってましたね。

しかしながら、さすがプロ。いろいろと注文が厳しい。縦置きと横置き(いずれも少し傾いてますが)兼用台でそれぞれの置き方をした際の鼓面位置の高さや傾斜角度の指定を満たさねばなりません。

更に最大の難関は、太鼓現物を一度も見ることなく台を作らねばならないこと。今回の太鼓は欅をくり抜いた太鼓で太鼓の皮を張る際に締めあげた状態のまま鋲で胴体に固定し、めくれ上がった皮がそのままの形で残されているのだが、その辺りの微妙な構造は、寸法なしで写真から推定せねばならない。

最終的に5台の注文を頂いたのだが、木は生きていて湿気を吸って大きく動くので規格は同じでも個体差や収縮で太鼓胴体の径など数mmの違いがあるはず。それも現物で確認できない。トホホである。

設計が固まった段階で台に使う材は、最終的に欅に決定。欅は取引している家具用材木屋さんの品揃えにはないので無理ですと伝えたのだが、「欅」一択なのでした。一枚板テーブルなどにいつか使おうと置いてあった6~7cm厚の板を数枚引っ張り出して2枚に割って使うことにした。

厚い板を2枚に割ると、反りが出たりするので一旦半割りにしてからしばらく放置して板内部の応力のバランスが釣り合った頃を見計らって再度平らに鉋掛けします。

基本、箱型の台なのだが、縦置きと横置きの両方に対応するために板の一部に太鼓のカーブに合わせた掘り込みが必要。各種治具を用意して機械で削れるところは削るのだが、いわゆる太鼓型の胴を乗せるには微妙な加工が必要なので最後は手掘りで仕上げます。

塗装色の指定も色見本を幾つも作り、何度もやり取りする中で最終的にマホガニー色(4度塗り重ねた濃色)のご指定。で、ようやく1台目が完成。太鼓現物を試作時に台に乗せて確認できない中、5台同時に製作する訳にはいかないのでまずは確認用である。

という事で配送された台に太鼓を乗せて確認してもらったのだが、残念ながら縦置き・横置き共に台の乗っている時の安定性が不十分とのご連絡をいただいたのでした。太鼓サイズの差があると怖いので若干幅に余裕を持たせたのだが、もっと余裕は小さくて大丈夫とのこと。

この結果を踏まえて、設計変更を入れて2台目を製作。今度は横置き時の太鼓を受けるカーブを10mm深くして、その分台を10mm高く、更に縦置き時の安定性が増すように側板にも太鼓受けの板を増設した。太鼓が乗る部分にはフェルトを貼っています。

実は、ちょうどこのころ市内に住まれている旧知の大橋プロが工房に来られて、ちょうど今回依頼の太鼓と同寸のものをお持ちで(以前その台を作らせて貰いました)、試し乗せするなら持ってきますよ、と有難いお申し出を頂く事が出来ました。

 横置き時

 縦置き時

出来上がった台にお借りした太鼓を乗せてみて両置き方ともOK、よさげ! という事で自信をもって2台目発送。無事合格! 縦横両方とも安定して台に乗るとの連絡をいただいた。同時に1台目も返送してもらい2台目同等サイズに改造したのでした。

という事で、残り3台も同デザインで製作開始。完成都度順次発送して随分長く掛かりましたが、無事納品完了したのでした。

いずれ依頼主のfacebookに掲載されるに違いない。5台揃って使われているシーンを是非とも見てみたいものである。

でも現物無しでの微妙な台の製作は難しいなあ、と再認識したのでした。

太鼓台2022の①

今年製作した太鼓台のご紹介。ひとつ目は、大桶太鼓を乗せる折り畳み式のデカい太鼓台。木工房YZ依頼主の最北記録でもある仙台のアマチュア和太鼓奏者の方からの依頼品で上に乗せる太鼓の中心部は床から約2mになる過去最高の背の高さである。

太鼓のサイズを教えてもらってその太鼓中心が床上195cmになること、安定感がいいように末広がりの4本脚で折り畳み式であることなどの指定があり、図面を書いて行った。最終的にはこのような図面で製作決定。

上部の円弧状のカーブ板の部分が今回の肝。折り畳み時にクルリと回せば折り畳み状態から簡単に決まった寸法で脚が固定されるという按配である(実用新案申請はしてませんが)。

いつものように栗材をご希望なので38mmの厚板を高山の材木屋さんから調達して木取り開始。板やら棒状に切り取って鉋盤に掛けて必要材の寸法に加工してからほぞ部分の加工へ進む。

今回は、2本の脚を上部でつなぐ材は、丸棒にする必要があるので旋盤加工で2本の丸棒も。

2本の脚を上部の丸棒と下寄りの板材でつながないといけないのだが、台形状に下が広いので交差部分は直角にならず、何かと手が掛かる構造ではある。

接着時も平行なクランプで締め付けられないので簡単な治具を作って接着。平行でない脚をこのようにX型に組んだ場合は脚をどんどん開いていくとやがて脚と脚がこすれていくので回転軸のボルト部分に微妙な間隔をあけて1mm厚ほどのワッシャを通さねばならない。

という事でウォルナット色のオイル塗装をしてようやく完成。

巨大廃段ボール箱を調達して梱包を終え、あとは発送して完了かと思いきや、今度は輸送上の問題発生。脚の長さだけで1.7m以上あるので通常の宅急便のサイズ上限を大きく超えているのである。依頼主からこの台を使う演奏日前の納入を指定されているが残り数日。

あたふたと輸送業者を当たってS急便なら送れると分かったもののこのサイズでは事前契約していないと送れないとのこと。焦ったものの偶然にもその数カ月前に同社営業から誘われて契約済みになっていたため事なきを得たのでした。

以前、沖縄に長い櫂を送るときにも送る方法が見つからず焦りまくった事があるが、今回も何とかクリア出来たのでした。送料は宅急便の比ではなかったですが。。。

今年5月に完成したこの台、太鼓が乗っている所を是非見てみたいのですが、仙台まで見に行く訳にも行かず演奏時の写真をお願いしています。届いたら貼り足したいと思います。Yさん、お待ちしてま~す。取りあえず図面で代わりを。

大黒柱から楕円形の座卓作り

隣町からご夫婦が工房にやって来られたのはふた月ほど前だったろうか? 建替え前のご自宅に使われていた太い欅柱を残しているので記念に小さな臼と杵を作ってほしいというユニークなご依頼からスタートしたのでした。

実際に餅をつくつもりはないが、欅柱の記念として身の回りに置いて置きたいとのこと。ギリギリ旋盤に掛かる太さなので出来ないことはないけれど実際に使う家具にも出来ますよ、というような話をしたところからトントン拍子に話が進み座卓を作ることになったのでした。楕円形の座卓がご希望とのこと。

という経過を経て、やがてトラックに乗った24cm角ほどの立派な欅の大黒柱が1.7mほどの長さにチェーンソーで切られて工房に運ばれてきました。ド迫力!

サイズと比重から計算するとざっと60kg。とてもじゃないけどひとりじゃ運べません(ギックリ腰必定!)。丸鋸と手鋸でまずは天板と脚の材のふたつに切断。短くはなったものの重すぎてまだひとりでは作業台から床に降ろせません。木工教室の際に手伝ってもらってようやく床上に。

脚の方は、短く軽いのでバンドソーで4本分の脚を切り出します。

天板は、仕上がり厚に合わせて4枚開きに。ただ、元が柱なので中央近くに芯があり、芯近くはヒビが入ったり小木の時の枝が小節として数多く残されているので家具材としては不適当で切り除きます。魚の背骨を外す感じですね、まるで。

築後数十年(百年近いのかも)も経て表面はいい色が出ていましたが、平らに鉋掛けをして板に仕上げて行きます。同じ厚さの板が揃ったところで木目を見ながら天板にする板の並びを幾度も並べ替えながら慎重に決定。ここらが出来上がりを決める一番の山場かも。

板を貼り合わせて目違いを取れば、次は楕円の墨付けをしてバンドソーでラフカット。ようやく全ての部材が勢揃い。脚は、まだ真四角、楕円もまだほぼ楕円という段階。

エクセルで楕円の公式を使って楕円形の座標を求め四分の一楕円の型を作り、これを使ってルーターで習い加工してきれいな楕円形に削り出し。削りくずとの闘い!

天板と脚の固定は、レッグジョイントという優れた金物を使います。脚と天板の両方に埋め込んだ金具同士をボルトで締め付けることで取り外し可能な脚が可能になります。四角の座卓なら脚の取り付け位置は簡単に決まるのですが(四隅ですから)、隅のない楕円形、さんざん悩みました。脚を天板の上に乗せてここがよさそうと思っても本来の天板下に置いてみると印象が全く違ってきます。

というように悪戦苦闘しながらも遂に座卓完成! 欅は材によって木目や杢、色合いに差がありますが、今回の欅は複雑な杢が出ていて仕上げのオイルを塗ったとたん、まるで黄金の座卓です。因みに脚は大きく角を丸く取りつつ、先細りにしています。

お引取りの際もご夫婦で来られましたがとても気に入ってもらえたようです。綺麗な木目だったので、この欅の残材でティッシュボックスを作って、おまけで差し上げたのでした。チャンチャン。

最近つくったものたち

ここ数カ月、工房で作ったものたち。

1.孫娘につくったドールハウス

実は大阪にいる孫に昨年末のクリスマスプレゼントとしてつくったもの。注文製作の合間を縫って2歳になる初の女の子のために(子も孫もそれまで100%男だったもので)爺ちゃんが愛情を込めて作りました。山桜の板を平らに鉋を掛けてカットして並べたところ。

屋根と側板が傾斜しているのでほぞで組むには些か大変なのでビスケットを(簡易ホゾですね,言ってみれば)傾けて差し込むことにしました。

で何やかやと中断しつつも昨クリスマス前に完成。その前の匠の祭用に1ダースほど作った小さなクリスマスツリー(売れ残りともいう)とお菓子のブーツも買って大阪まで届けました。

 

ま、当面はキリンさんのおうちかな? このお気に入りのぬいぐるみが入るように背の高い塔状の部屋を作ったのです。いつか、このおうちに並べる小さなテーブルと椅子も作ってあげるね。

2.テンセグリティ・テーブル2号機

今年になってから千葉のお医者様からテンセグリティ・テーブルの注文を頂いたのでした。以前作った1号機のページを検索でご覧になっての依頼のようでした。1号機と同じデザインで構わないとのことでしたので同じ寸法で今回はヨーロピアン・ビーチ材(日本のブナの木と同じですね、輸入材の方がはるかに良材ですが)で作ることになりました。お医者様ゆえなのか肌色に近い木がいいとのこと。

構造上斜めに組むほぞが多いのですが、直角に組むのと違って切るのも組むのも手間が何倍も掛かります。2回目なので時に手加工も交えながらもそれなりに順調に製作進行。

 

前回と同じような動画ですが。前回どうやって音楽を入れたのか思い出せない (T_T)

今月に入ってお届けしたのですが、お受け取り後に「とてもよい仕上げで最高にいいです!」とのご連絡が。嬉しい一瞬です。後になって教えていただいたTwitter を読んでみたところ、江の島にテンセグリティーのオブジェが置いてあってそれがきっかけでのご依頼と判明しました。ネットの時代なればこそ、ですね。

3.離乳食スプーン

今月、お孫さん向けの離乳食スプーンを納品しました。今回は、ブラックチェリー、山桜、ウォルナットのご希望でした。ケースは、杢の入った山桜です。スプーンの下面には、お孫さんの名前も入ってます。今回は、お孫さん誕生の何カ月も前からご依頼をいただいて、誕生直後から製作開始。使ってもらえるのはまだしばらく先ですね。

 

新年のご挨拶(&キャビネット製作記)

2022年、明けましておめでとうございます。昨年はいろいろとお世話になり有難うございました。コロナの広がりがこれ以上大きくならず、皆様にとっていい年となることを祈りたいと思います。工房のある近江八幡は、大晦日からこの冬3度目の雪が降り始め、元旦の朝には10cmほどの積雪となりました。

昨夜遅くに昨年最後の製作について書きましたが、これはその少し前に作ったキャビネットです。洗面台横のスペースにピッタリ納まるナラ材指定のキャビネットを依頼されました。

材料のナラ材の板、全部で7枚必要です。箱モノを無垢板で作るには思いのほか沢山の板が必要になります。

両面を鉋盤に掛けて木目を見ながら貼り合わせる板の組み合わせを決めて行きます。木目や時には避けられない節も見ながら決めて行きます。

最高の板目板は、天板に。ナラ材特有の柾目にのみ出現する虎模様の杢部分は量が限られているので扉部分に当てがいます。

扉は、取っ手のないスッキリしたデザインをというご希望に合わせて扉上端に掘り込みを入れたものにしました。

洗面台左のスペースが設置場所。うまくここに入るのかドキドキしながら置きます。

無事にうまく納まりました。幅も高さもちょうど。フローリングのナラ材と同じ材で相性もピッタリ、喜んで頂きました。

という事で、無事ミッションコンプリート。この時期に建築されたばかり家らしく玄関に手洗い場があるのです。訪れた人の目に必ず触れる一等地に置かれるキャビネット、となったのでした。

 

今年最後の製作

2021年も残り30分足らずとなりましたが、今年最後の製作となったのは、太鼓台。大きなケヤキの丸太をくり抜いた直径56cmほどもある重量級の大太鼓が乗る台、しかも4台同時製作。12月26日に開催された和太鼓コンサートの主催者である大橋さんから開催直前に依頼されたのでした。気合で何とか間に合わせますと言ったもののさすがに同時4台は時間が掛かって4台中2台はコンサート前々日、残りの2台は前日夜納品という超綱渡り!となりました。

四角い箱状の台は、太鼓鼓面が傾斜14度、中央高さ83cmが演奏するうえで必要な寸法という事でそうなるように設計します。更に太鼓を台の枠内側ではなく枠の縁に乗せて欲しいとのこと。更にややこしいことに4台の太鼓の寸法が微妙に違ってます。なので一番大きな太鼓が乗るように枠に太鼓の外形に合わせたカーブを掘り込んでその内側にも細板を当てがって太鼓を受け止めます。底面は治具を当てがってルーターを使って掘りますが、太鼓のふくらみを受け止めるカーブは、丸のみとバイオリン鉋を使ってひとつずつコリコリと掘っていきます、彫刻のように。

ようやく2台の組み立てが終了。栗の木で作った台は、ご希望に合わせて黒く塗装してから太鼓が当たる部分にフェルトを貼って、キャスターを取り付ければ完成。コンサート開催の前々日納品でした(2台は約束通り)。

そして最後の2台が完成したのはコンサート前日夜。連日深夜まで作業を続けたものの直前納品となり迷惑を掛けてしまいました。

前日ようやく完成

そして待望のコンサート当日。コロナ禍でしばらく大規模コンサートが出来なかったので久しぶりの開催に出演者全員のあふれるような笑顔と充実感のこもった演奏がとても感動的でした。通常は、完成後に太鼓を乗せて問題ないことを確認するのですが、今回は時間がなくてぶっつけ本番。無事に太鼓が乗っている姿を見て心底安堵しつつ達成感を味わいました。

中央寄りの四角い2台が今回のものです。

2021年、お世話になりました。皆さま、そうぞ良い年をお迎え下さい。コロナが収まる年になる事を祈りつつ。