カテゴリー別アーカイブ: 家具修理

最近の椅子修理

いろいろな壊れ方をした椅子の修理依頼が、ぽつぽつとやって来る。平均すると月に1回ぐらい?  少なければ1脚、多い時は5脚なんて時も。

椅子の構造を座面だけで分類すると、①座面が単なる板構造のもの(お尻のカーブに合わせて中央部を少し掘り込んだものが一般的)、②スポンジを平らな板の上に(数枚)乗せてから合皮などで包み込んだ弾力ある座面のもの、③板ペーパーコードと呼ばれる紙ヒモや植物繊維を編んで座面にしたもの、④棒を四角い枠状に組んだものにゴムベルト(ウェービングテープと呼ぶようです)を縦横に荒く編んでその上にクッションの入った座布団状のものを置いて柔らかな座面にするもの等、いろいろ。

<Winds 太平の肘掛けウィンザー>

最も頻度の高いのがこの会社製のもの。既に会社がなくなったからだと解釈しているのだが。。。

肘掛け付きのウィンザー椅子の修理は、そんなに多くはないが時々やって来る。座面が割れていたり、あちこち接着がダメになっていたり。

接着がだめになってグラグラになっていれば一旦、分解して古い接着剤を削り落として再接着。全部が分解出来れば修理後の強度的には一番望ましいのだが、そうとも限らないので、出来る範囲でなるだけバラバラに。

接着がダメになるとほぞの部分に無理な力が掛かるようになり更なる破損へと進みがち(虫歯治療みたいなものかな?)。丸ほぞの部分が破断している場合、その部品を作り直したり、丸ほぞ部分だけを接ぎ木のように修復したりケースバイケースで対応。

最後は、接着し直して元の姿に戻ります。塗装のはがれがあれば、タッチアップ的に塗り直したり、時には広範囲に旧塗装を落として塗り直したり。

全部で4脚修理したのですがそのうち2脚は接着切れで座面割れ、残り2脚は割れなし。大分悩んだのですが、同時購入の椅子なので遠からず座面割れがやってくる可能性があるとみて、予め依頼主さんの了解を得て、座面下に大きな薄板を貼っておくことにしました。カッコ悪いのですが、座面下で見えません。念のため木ねじが見えないようにパテで埋めて同系色を塗っておきました。これでまた安心して長く使える事でしょう。

<テープ張替え>

座面その④のケースです。長年使うと座面下に張ったゴムベルトが伸び切って、座面の底が抜けたようになりお尻がそこにはまり込むような座り心地になってしまいます。見た目だけでは分かりませんが。。。

クッションを取り外してみるとベルトが伸び切ってしまっています。

こんな時は、こんな風にベルトを新しいものに張り替えるしかありません。

椅子の構造部分に問題なければ、これで座り心地は元に戻る訳ですね。

<柏木工のウィンザー>

これは飛騨高山の大手家具メーカーの椅子ですが、やはり長年の使用で昔の接着剤がダメになっていることはよくあります。

まずは、バラバラに分解します。体重が掛かる部分の接着は既に聞かなくなっていて簡単に分解できますが、余り力が掛かって来なかったような部位では接着がしっかりしていて分解できない箇所が残る場合もあります。余り無理をすると分解ではなく破壊してしまうことになりかねないのでそのまま残すこともあります。

ここで不精せずにちゃんと古い接着剤を削り落とすことが大事です。角ノミや丸ノミ、丸ほぞ穴には同径のドリルで穴の中をさらったりします。丸ほぞ割クサビといった頑丈なほぞが最も力の掛かる部位に使われていますが、こちらも経年変化ですっかりダメになっていることが多いです。

残っているクサビを鋸などで外して新しいクサビを用意します。

準備が出来たら再接着。

後は、はげ落ちた塗装を手直しすれば完成。

<デザイン重視(し過ぎた)椅子>

背中を支える棒材と脚が一体構造でこれと座板を左右のホゾ二つだけで取り付けた椅子でした。見た目はおしゃれですが、いかにも強度に難ありという設計。お子さんが椅子の上で遊んでいて、いきなり破損したそうです。怪我でもしたらPM法の対象になりそうな構造です。

ほぞがぽっきり折れてます。おまけにこのホゾは座板側面の材と一体で斜め方向に飛び出たほぞで、つまり木目がほぞを斜めに走っているという酷いデザイン。折れない方が不思議なぐらい斜めに出ていました。

   

接着面が座板側面と直角になっていないので新たなほぞ穴を接着面の直角に掘れません(2cmほど掘ると穴があくので)。悩んだ末に大きな縦方向のほぞではなく水平方向に別材の小さめのほぞを2枚ずつ(トータル4枚)入れることにして改造です。ほぞ穴に残る破損部材を掘りだして取り除いてから新たな木で埋めて平らにしてから新たにほぞ穴を掘ります。

ここまで準備できれば接着に進めます。接着剤が固まるまでクランプでしっかり保持して完成です。本当なら前脚と後ろ足の間に貫を入れて補強したいところです。左右に2本入れれば、同じような破断はまず避けられるのですが。見た目重視、強度軽視デザインの好例です。

こんな風に椅子修理は、工房の知恵試しをされているようなところがあって、その謎ときが面白いので割合に好きです。ポツリポツリとやって来るからこその面白さではあるのですが。

 

Winds 太平の椅子修理

Winds 太平という今はなき飛騨高山の家具メーカの椅子修理を今年も数多くこなした。 現存する会社だとその会社自身で椅子の修理を受け付けてくれが、なくなってしまった会社の椅子を修理したい場合、ネットで検索ということになるようです。そんな中に天の采配で私の工房にやって来る訳である。インターネット時代なればこそですね。

ウィンザーチェアと呼ばれる系統の伝統的な椅子構造で座板に丸脚の丸ほぞが差し込まれた丈夫なものなので、大抵は30年~40年使いこんだ末の痛みで、最も多いのが座面接着部の割れ。座板に突き刺した4本の脚で体重を支えるため、座板中央に最も大きく剪断力が働き中央寄りの接着部が最初にダメになる事が多いようです。

うまく分解できた場合は、座板の割れた面に鉋を掛けてビスケットと呼ばれる簡易ホゾ的な部材を割れた面の間に溝を掘って差し込むので新品時の接合以上に丈夫な貼り合わせが出来ます。

時には。背中部分や脚がどうしても分解できないこともあります。仕方ないので狭いすき間から薄ノミや金属板にサンドペーパーを貼ったもので接着剤をこそぎ落として再接着しますが、再接着部分の強度が充分でない可能性が残るので貼り合わせ後に座板下から補強しておきます。見た目、ギブスを当てているようですが、裏返さない限り見えないので外見より強度優先ですね。

次は、超珍しい修理事例ですが、背中の曲げ板が何故か途中で破断していて、おまけにそこに金属板を当てがって修理されたものでした(座板にも割れあり)。

この修理痕も見苦しいので再度直してほしいというご希望。いろいろ悩んだ末に破断部を切断して別の曲木を接着して成型することにしました。

という事で、無事修理完了。お送りした椅子をご覧になって、「素晴らしい出来栄えに、感動しました」という連絡を頂いた時は。木工屋として舞い上がります。

背中部分などで長年の使用で塗装がはがれてしまっていることもよくあります。そんな時には、一旦その部分の塗装を削り落としてから再塗装します。

塗装し終えれば、すっかりキレイになってこの先何十年か使い続けられることと思います。この時は、3脚同時修理。

修理の面白いのは、それぞれのケースで破損状況が違っているので修理方法を選んで組み合わせ、時には新たな材で破損部を作り直したりと、いろいろ知恵を絞らねばならない点ですね。うまく修理出来て依頼者に喜んでもらった時にその苦労が報われる気がします。新しい家具を作った時と違う面白さですね。

これが、2020年最後のブログとなりました。大変な一年だったかと思いますが、皆様よいお年を!

いろんな木工依頼

近所の方やホームページを見た方からいろいろな注文がやって来ます。町の木工屋としては、木で作ったものなら、基本何でもお受けすることにしていますが、変わった依頼も多いです。

近所のお寺さんからの依頼は、壊れた衣桁と衣装箱の修理。恥ずかしながら衣桁という言葉初めて知りました。衣紋掛けですね。一旦バラバラに分解。元々は多分分解可能で接着はされていなかったのだと思われるが、釘が打たれていたり中途半端な接着がされていて歴史を感じる。

 ほぞが折れて外れた中段

足元は、白アリが食ったような穴が・・・。

まずは、折れたほぞが詰まったほぞ穴部に再度ほぞ穴を掘って差し込む側にはほぞを再生。

接着し直して、組み立て完了。黒漆の塗り直しも提案したもののそこまでは不要とのことで、白アリの穴にパテを詰めて黒く簡易塗装のみ。これは接着中の写真。

同時に預かった衣装箱も修理。外側面には籐編みを施した上に拭き漆が施されて手間が掛かったものなのだが、角部分の接着が2カ所ダメになって持ち上げるとさらに壊れそう。内側の塗装板の一部が剥がれ落ちていたのを修理の際に預かったのでこれも再張り付け。全部の分解は出来ないので、隙間にサンドペーパーを貼った薄い金切り鋸刃で古い塗装をこすり取ってから再接着。

  角部の接着切れ

元国鉄マンで新幹線運転士も務められた近所のOさんは、国鉄野球部所属だったとか。そんなわけで、折れたバットを持って来られてそれを使ってペン立てとかボール置きを何度も作りました。また、現役時代の懐中時計を飾るケースや時計立てをとの注文も。

 左端が懐中時計立て

 記念ボールスタンド

前にはこんなペン立ても。ペンを差す穴をあけた後の写真が見つからなくて穴あけ前の物。どうやらバットの印刷部分に意味があるらしい。

もちろん定番の椅子修理もいろいろ経験中。預かる木の椅子は殆ど(全てかも)飛騨高山のメーカー製。今ではなくなったところもあれば現役のメーカー品も。ウィンザーチェア、随分歴史ある椅子だが、座り心地はいいし見た目もいいし、直せばいつまでも使える素晴らしい椅子だと思う。

 Before

 修理中1

 修理中2

 After

前に修理したのと同じ方から、別の椅子がまた同じところが破損とのこと。やはり設計に問題ありかな。まあ、製造後何十年も経っていて会社もなくなっているので文句言えないですが。

 修理中

 After

最近は、子供用自転車に使う曲げ加工をした竹パーツの加工なんていう超へんてこりんな注文も舞い込んでます。初の竹加工。木と同じかと思ったら大きな(中ぐらいかな)間違い。また後日。

ちゃぶ台修理

若いご夫婦にちゃぶ台の修理を依頼された。ご家族から受け継いだ家具を再び使えるようにしたいという事で、修理できるか慎重に確認したもののなかなか厳しい。経年の木の痛みがひどく、天板下はほぼ木枠から外れ、木枠角の継ぎ部分には隙間が空き、ひどく反りも入っている。過去の修理によるものと思われるが、脚のほぞ部分が釘で補強されているものの木も痩せてグラグラな状態。何よりちゃぶ台特有の脚の折り畳み機構部分が、ほぼ全壊。金属棒を使ったかなりユニークな機構で興味深いが、構造に無理があり使うほど金属と脚部の接続部がえぐられる仕組み。部材も薄い軟材で再利用も難しい。という事で下半身は新規製作し、天板のみ(割れていて反りも大きいが修理は出来そう、大胆にも釘で取り付け!)元の材料を修理することで了承いただいた。

オリジナルの折り畳み機構の動画がこれ。残っている部材を無理やり並べて置いて手で動かしてみた。

天板は割れ(接着はがれ)でふたつに。

で、新たに作ったちゃぶ台の木枠の接合部は脚の曲げ伸ばしで大きな力が掛かりそうなので丈夫なあり継ぎを採用。

割れた天板は、断面に鉋を掛けて再接着。丸い板を貼り合わせるのはクランプを掛けるのが難しいのだが、今回は中央に火鉢用(?)の丸穴があったのでそれを活用。

貫でつながれた2本の脚が一体となって回転しないといけないので、金属棒とバネを使って木枠に取り付け、脚を立てた際に固定する回転板も取り付ける。これは、脚を折りたたんだ状態。

脚を起こして回転版で脚を固定。

という訳で天板を取り付けて修理完了。

今度の折り畳み機構は、こんな感じ。ちゃぶ台機構としてネットで紹介されているものと同じように製作してみた。各パーツの寸法をかなり正確に擦れ合うようにしないと脚のぐらつきを招くのでかなりシビアな製作が求められる。

引き取りに来ていただいた際、ご夫婦は蘇ったちゃぶ台を見て「また使えるようになって嬉しい」と大層喜んでいただいた。嬉しい一瞬。

脚をたたんでちゃぶ台を立て、丸い天板を車輪のように転がせば、全体を持ち上げることなく移動容易で省スペースを実現、という訳である。先人の知恵は素晴らしい。最近の家具店では、ちゃぶ台を見かけることはなくなったと思うが、こうしてみると改めて優れモノであることを実感したのでした。

 

 

丸座卓の修理

これは、昨日修理が終わったばかりの丸座卓。

以前、ウィンザーチェア・タイプの木製椅子の修理をさせていただいた方から修理を依頼されたのは、恥ずかしながら昨年晩秋の頃。直径1.2mほどもある大きな丸座卓で曲面で構成された脚がなかなかオシャレなのだが、脚を支える部材がひどく破損してもはや自立できない状態になっていた。

聞いたところでは、この家具のメーカーは今も営業を続けているのでその会社に連絡を取って修理を依頼したところ、断られてしまったのだとか。他の家具屋でも受けてもらえず、見てもらえないかと修理の終わった椅子を引き取りに来られた際に持って来られたのである。

依頼人ご夫婦のお母さまが気に入って長年使われていたものなので何とか修理してまた使えるようにしたいとお聞きして、よく見もせずにお預りしてやって見ますと勢いで答えてしまったのである。

ところが、なかなか一筋縄で治せそうにない。この座卓、脚は天板と直接接合されていなくて、脚は円周状の枠板にボルト留めされていて、4つの1/4円の円周材がそれぞれわずか2つの木ネジで天板に固定されているだけなのである。なので脚部に横向きの力が掛かるとテコの原理で円周板を何倍もの力で剥がそうとすると力が掛かり割れを引き起こしたようである。

正直な感想を述べるなら設計ミスと言うべき。デザイン重視で強度設計が軽視されている印象。本来なら天板以外を全て作り直して頑丈な脚部に元の天板だけ乗せるのが強度的には望ましいが、天板自体はフラッシュ家具(骨組みに薄板を貼った構造)で、軽いのはいいが補修には制約が極めて大きい。何カ月も悩んだ末に(トータルすると数時間かも知れないけど)結局抜本的修理はあきらめて元のデザインのままで修復することにした。

とは言え、円状に曲げ加工されている破断した部材を復元するのは大変ではある。薄板を曲面に沿って何枚も貼り合わせた構造の曲げ木なので型板を作るしかない。たった一本の曲げ板を作るために分厚くてデカい型板を作るのは悩ましいが、やるしかない。

という事で、ベニヤ板を5枚重ねで貼り合わせて厚さ6cmほどの曲げ板用型板を作り、破断した曲げ板の無事だった表側だけを再利用して修復してみたの図である。クランプ総動員で力づくで薄板を何枚も重ねて曲げて接着しているところ。

破断には至らないまでも無理がたたってか、あちこちヒビが多いのでそれらは接着剤を隙間に流し込んで修復。壊れた脚取り付け部材も切って貼って削って元の形に戻す。

何やかやこまごまとした作業を繰り返して、何とか元の形状に戻すことが出来た。あとは、似た色で何回か塗装してやっと修理完了となった。見た目は、もとのまま、のはず。

お渡し日はまだ未定だが(兵庫県から来て頂くのである)再び家具として役立てるのを丸座卓と共に喜びたい。

ところで出来上がった型板。もはや出番はないのだが、処分するのも何だか悲しい。置いておくのも邪魔だし、どうしたものか。このRを使った曲木で何か作ってみる?   それも順序が逆だしなあ。

あと、自分の会社で作った木製家具の修理を断るとは、家具屋の風上にも置けない、ひどい会社じゃないか。あんたのせいでわたしゃえらく苦労したぜよ。まあ面白かったけどね。名前は伏せといてあげよう。