西洋鉋と南京鉋

家具作りに用いる刃物付の手道具は、3種の神器とでもいうべき鉋・鑿(のみ)・鋸という事になるのだが、その鉋について。いわゆる和鉋が伝統的な鉋で工房で日常的に使う鉋の殆どは鉋台と呼ばれる木の台に刃をすげたものになる。

一昨年のことになるのだが、木工教室に通ってくれているTさんがオークションで手に入れたという西洋鉋を教室に持ってきて刃物研ぎをしたり台調整をして使い始めた。西洋鉋のことは知識として多少は知ってはいたが、実物を見るのは実はそれが初めて。

日本で生まれた和鉋とは全く違った文化で生まれ育っただけに発想がまるで違う。和鉋の木の台に対し、鉄の台。和鉋は、刃物を木づちなどで叩いて刃の出具合調整をするのに対してネジ付きのつまみやレバーを操作することで刃の出具合が調整出来る。和鉋の刃は、鍛冶仕事で鍛錬した軟鉄に鋼を貼り合わせて先すぼみで先に行くほど薄くなる形状なのに対して西洋鉋の刃は均一な厚さと幅の工業製品的な刃。引いて使う和鉋に対し押して使うといった具合に全てが対照的。とは言え、木を削るという全く同じ目的の道具なのである。

で、当時試しにアメリカの著名メーカーから最初の1台を通販で輸入したのでした。Lie Nielsenというこの分野では最も優れた鉋メーカーの製品でなかなかに精度高くかつ美しい仕上がりの鉋が届いたのでした。そのままでも使えないことはないものの調整された和鉋のような切れ味ではないのでそれなりに刃物をキンキンに研いだり台の僅かに平坦でないところをダイヤモンド砥石などで平らに微調整すると素晴らしい切れ味!下の写真の一番左がそれです。

こうなると道具フェチの血が騒ぐ、という訳で次は中国通販で超安いもの(Nielsenの10分の1以下)を買って調整に挑戦してみました(上の写真の左から3番目)。そしたらこれが何とそこいらじゅうどこを取っても全くダメダメの連続。刃は薄いうえに平らでもなく鉋の金属台もどこもかしこも平らでもなければ直角も出ていない、ということで延々と調整を繰り返すも全くどうしようもない代物でした。木のハンドルも酷く歪んでいたので作り直し、刃はまともなメーカーと交換、金属の台も根性で削ったり掘ったり穴を開けたりと色々やったものの最後はギブアップ、時間と手間を無駄にしました(涙)。

3番目は、イギリスのStanleyという会社の少し上のグレードのものをイギリスのAmazonから購入(上の写真の左から2番目)。この会社、実はそもそも西洋鉋のオリジナル商品を数多く開発した由緒あるメーカー。今はLie Nielsenの方が商品力は上らしいのですが、モデルの名称などは、このStankeyのものを踏襲。今では製造品質で本家を上回ってしまったらしい。

そのStanleyの鉋も多少の調整を済ませれば(といっても木の台と違って鉄製なので桁違いに大変、ただ調整が終われば後は木と違ってすり減らないし変形しないので楽~)、バッチリ実力発揮。

その後もアメリカやイギリスのメーカーから違ったサイズや目的の鉋を買い集めているうちに(中国製の右端の小さなのはOKだった)大家族になってしまいましたとさ。

で和鉋と西洋鉋、総合的にどちらが優れているかというとそれは使い手次第という事になると思います。和鉋に慣れてしまっているので私は和鉋に軍配。ネジを回して刃の出具合を調整するより木槌でコンコン刃を叩いて調整する方が早いし、鉄の台を平らに仕上げるより木の台の方が圧倒的に楽。もっとも和鉋は木の台が動くので定期的に台調整が必要で方や西洋鉋は一度調整してしまえば後のメンテナンスはほぼ不要(刃の研ぎは別にして)らしいです。刃にも細かな違いはいろいろあるのですが以下省略。

次の話題は、南京鉋。和鉋でもなく西洋鉋でもなく中国由来の鉋とGoogle博士は書いてます。和鉋や西洋鉋は基本的には平らな縦長の台に刃物を仕込んで板の平面を削り出したり、時には角の直角部分に面取りという小さな平面を出すのに対して横長の鉋台に小さな刃物を取り付けて両手で操作して棒状の木材やカーブを付けて削るという技が得意。平面上の家具製作には活躍の場はないのですが棒状とか板の端が耳と呼ばれる元の丸太の樹皮部分の仕上げとかにも重宝します。

上の南京鉋は、樫の木などを棒状に削って刃物を通す口穴をノミなどでコツコツと削り開けて自作しました。期待通りよく切れます。

南京鉋用の小さめの刃物は探せば通販やオークションで買えないこともないのですが、和鉋のデカい刃を切って作るという強引な技もあるようで。。。研ぎ過ぎて短くなってしまった刃を金切り鋸で地金部分を無理やり切って、刃先側の鋼は鋼同士で切れないのですが無理やり折り曲げるとポキっと折れて切り離せます。

グラインダーで小刃らしく頭を丸めてついでに少し薄くして完成した南京鉋の刃(左側)。慣れない金属加工で疲れたので南京鉋は未着手。

という訳で西洋鉋と南京鉋の紹介でした。ちょっと脇道に逸れてるけど。